農地の権利移動・農地の転用

農地は、自分が所有する土地であっても、自由に家を建てたり駐車場にしたり、自由に売り買いすることもできません。農地は、国内の農業生産の基盤であり、国民のための限られた貴重な資源です。また、農地とは、耕作の目的に供される土地を言い、現に工作されている土地はもちろんのこと、現状は耕作されていなくても、耕作しようとすればいつでも耕作できるような、客観的に見てその現状が耕作の目的に供される土地(休耕地、不耕作地)も含みます。農地であるがどうかは、その土地の現状によって区分するのであって、土地登記簿の地目によって区分するのではありません。

農地法の目的は、農地の重要な役割を踏まえ、耕作者が農地の所有を果たし、農地を農地以外にすることを規制するとともに、農地の利用関係を調整して、利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地の安定と国内の農業生産の増大を図り、国民に対する食糧の安定供給に資することにあります。つまり、農地の転用、売買、賃貸等は農地法で制限されることとなります。例えば、自分の農地に家を建てる場合は、農地転用の許可が必要となります。農地転用とは、農地を農地以外にすることで、具体的には、宅地、工場用地、駐車場、資材置場、道路等にする場合があります。また、農地を売買する場合にも許可が必要となります。


農地法の規制

農地法の許可種別 第3条 第4条 第5条
内 容 農地の権利移動 農地の転用 農地の転用目的権利移動
対 象 農地→農地 農地→農地以外 農地→農地以外
権利移転 あり なし あり
許可申請者 売主(貸主)と買主(借主) 農地所有者 売主(貸主)と買主(借主)
許可権者 農業委員会 都道府県知事 都道府県知事
市街化区域内 届出 届出 届出
市街化区域外 許可(相続の場合は届出) 許可 許可
違反の効果 無効 現状回復命令 無効・原状回復命令

3条許可申請

自分の農地をそのまま他人に譲渡する場合

農地はきちんと農業をしてくれる人でないと譲渡をすることができません。日本の農業を守るために、買受人のチェックが必要となっております。「市街化区域」については、許可ではなく届出となります。「市街化調整区域」については許可が必要となります。また、違反すると懲役・罰金刑があります。相続の場合、許可は必要ありませんが届出が必要となります。森林も相続した場合には届出が必要になりました(平成24年4月から)。この届出をしなかった場合、10万円以下の過料を科される場合があります。

農地法3条許可の許可要件 概  略
全部効率利用要件 土地の取得後に、すべてを効率的に利用して、耕作又は養畜の事業を行うこと。

農業所有適格法人要件

権利を取得しようとする者が法人である場合、その法人は農業所有適格法人であること。(※1)
農作業常時従事要件 農作業に常時(状況により異なるが年間150日以上)従事すること。
下限面積要件 農地面積の合計が、一定以上確保されること。
地域との協調要件

農地の集団化や農作業の効率化、その他周辺の地域における農地の効率的かつ総合的な

利用の確保に支障を生じさせないこと。

(※1)平成21年12月の農地法改正により、貸借(使用貸借、賃貸借)による農地の権利移転に限り、一定の要件を満たせば、農業所有適格法人以外の法人でも許可を受けることが可能となりました。


4条許可申請

自分の農地を「宅地」などに変更する場合

自分の土地であっても、勝手に規模を縮小して家の増築や駐車場に利用することはできません。広ければその分「農地を確保しておく」意義からすると難しくなります。その場合は必要分だけを分筆(登記簿上のA土地をB土地、C土地に分別)して許可申請をすることになりますので、土地家屋調査士との連携で手続きを行います。また、4ヘクタール以上であれば農水大臣の許可が必要です。「生産緑地地区」に指定されている場合の変更は、基本的には認められませんので3条許可の農地として譲渡することしかできません。生産緑地地区に指定された場合は市が標識を設置しています。例外として、生産緑地の指定解除ができる場合もありますのでご相談下さい。

「市街化区域」については、許可ではなく届出となります。「市街化調整区域」については許可が必要となります。窓口での相談を経ての申請となりますので、すぐに受理されるものではありません。さらに、農地から宅地へ転用後に建物を建てる場合は『開発許可の申請』、『建築確認の申請』も別途必要になります。

農地転用の許可基準

立地基準

〇農用地区域内農地

農用地区域内農地とは、市町村が農業振興地域の整備に関する法律(農振法)に基づいて作成した農業振興地域整備計画において、農用地区域として定められた地域の中に存在する農地のことです。「青地」の農地とも言われますが、原則として農地転用はできません。しかし、農地法に定められた厳しい条件を満たせば、例外的に認められる場合があります。この場合に農地転用をするためには、あらかじめ農用地区域からの除外(農振除外)しておく必要があります。そして、農用地からの除外が完了後に、改めて農地転用の許可申請をすることになります。

〇第一種農地

第1種農地とは、集団的に存在し、良好な営農条件を備えている農地のことを言い、具体的には下記のような条件を備えた農地のことです。

1.おおむね10ヘクタール(10万㎡)以上の規模のまとまった大きな農地の区域内に存在する。

2.特定土地改良事業等の施工区域内にある農地。

3.傾斜、土の性質その他の事前状況から見て、周囲の農地を超える生産が見込める農地。

第一種農地は、良好な営農条件を備えていることから、農用地区域内の農地と同様に、原則として農地転用はできません。

〇甲種農地

甲種農地とは、第一種農地のうち市街化調整区域内にある、特に良好な営農条件を備えている農地のことを言い、具体的には下記のような条件を備えた農地のことです。

1.概ね10ヘクタール(10万㎡)以上の規模のまとまった大きな農地の区域内に存在する。

2.その面積、形状その他の条件が、農作業を効率的に行うのに適しており、大型の農業機械が利用可能な農地で、土地改良事業が行われてから8年以内であるもの

甲種農地も、第一種農地と同様に、特に良好な営農条件を備えていることから、原則として農地転用はできません。しかし、例外的に農業施設や公共性の高い事業においては、農地転用が許可される場合があります。

〇第二種農地

第二種農地とは、第三種農地に近接する区域その他市街化が見込まれる区域内の農地のことを言い、具体的には下記のような条件を備えた農地のことです。

1.道路や下水道、駅などの公共設備・施設の整備が、第三種農地程度に見込まれる区域内の農地

2.宅地化の状況が、第三種農地程度に見込まれる区域内の農地で、その規模が概ね10ヘクタール(10万㎡)未満であるもの

3.農用地区域内農地、第一種農地、甲種農地、第三種農地のいずれにも該当しない農地

第二種農地は、申請対象農地以外の農地で、転用目的を達成することができると認められる場合は、農地転用はできないとされています。つまり、申請対象農地以外の農地で、転用目的を達成できないと認められるときは、農地転用が可能となります。

〇第三種農地

第三種農地とは、市街化の傾向が著しい区域内にある農地のことを言い、具体的には下記のような区域内にある農地のことです。

1.道路や下水道、駅などの公共設備・施設の整備が、一定の程度に達している区域

2.宅地化の状況が、一定の程度に達している区域

第三種農地は、農地転用が可能です。

一般基準(立地基準以外の基準)

一般基準とは、転用事業の確実性及び周辺農地に対する影響を考慮して、許可申請内容について許可・不許可を判断するものであり、主に下記の3つの観点から判断されます。

  • 農地転用が確実に行われること  農地転用は、転用事業の用途(住宅建築や駐車場等)に供する確実性があるとされない場合は、認められません。また、申請時に転用事業を行うための資力があるかや、転用の妨げとなる権利を有する者の同意を得ているかどうかも問われます。
  • 周辺農地の営農条件に支障を生じさせないこと  農地転用によって転用予定地の周辺にある農地に悪影響を及ぼす場合、例えば、住宅を建てるために、埋め立ててコンクリートで固めた結果、雨水が隣の畑に垂れ流しになる恐れがある場合は、不許可になります。こうした場合は、住宅の周囲を擁壁で囲い、集水桝などを適正に配置して、農地に悪影響が及ばないような排水計画をたてる必要があります。
  • 一時転用の後に、農地に確実に復元されること  仮設の工作物等を一時的に農地に設置したい場合、農地の一時転用が認められることがあります。もし、一時転用して、その利用の後、その土地が農地に復元されることが確実と認められない場合は、不許可になります。農地への復元を条件として、一時的な転用を認めるという制度です。一時転用は、ソーラーシェアリング(営農型発電設備)を行う際に利用されますが、3年ごとに申請をし直す必要がある等の制約があります。

5条許可申請

自分の農地を「宅地」などにして他人に譲渡する場合

農地法5条は、転用行為と同時に、権利の移転・設定が起きます。権利の移転とは、例えば農地の譲渡による所有権移転のことを言います。また、権利の設定とは、例えば農地を借りる際の賃貸借権の設定のことを言います。

農地法4条は、農地転用後は自己が土地を使用するのに対し、農地法5条では、譲受人又は賃借人が土地を使用する点で異なります。


非農地証明とは

非農地証明とは、登記上の地目が田、畑、牧場となっている場合において、その土地が農地法上の農地に該当するかどうかを農業委員会が判断し、一定の条件を満たした場合には、非農地として証明するものです。現状証明とも呼ばれます。この証明書が交付されることで、該当する農地が農地法上の農地ではなくなることとなり、農地転用許可や届出が不要になるということです。非農地証明は、法律の根拠があるものではなく、農地法の適正な運用を図るため、各市町村の農業委員会が行政サービスの一環として行っております。

非農地証明の条件

統一した基準ではありませんが、下記に一般的な条件を記載します。

1.農地法が適用された日以前から、非農地であった土地

2.自然災害による災害地で、農地への復旧が困難であると認められる土地

3.農業振興地域の整備に関する法律で定める農用地区域外の土地で、原則として20年以上耕作放棄され、将来的にも農地として使用するのが困難であり、農地行政上も特に支障がないと認められる土地


買受適格証明書とは

通常の売買や贈与の場合、農地法3条許可や農地法5条許可が必要となり、原則、当事者双方が連名で申請する必要がありますが、例外的に当事者の一方が単独で申請できる場合があります。それは、下記のような場合となります。

1.強制競売、担保権の執行としての競売

2.公売

3.遺贈

4.判決の確定

5.裁判上の和解

6.民事調停の成立

7.家事審判、家事調停の成立 等

※1.2.において農地の買受を受ける者は、農業委員会から交付される買受適格証明書が必要となります。


太陽光発電
(ソーラーシェアリング)

ソーラーシェアリングとは、農地に支柱を立てて地面から約3メートルの位置に短冊型のソーラーパネルを設置し、農業を行いながら太陽光発電をするものです。太陽の光を、農作物と発電で共有するところから、ソーラーシェアリング(営農型発電設備)とよばれています。農地の上部にソーラーパネルを設置すると、日光が遮られ作物が育たないと思われるかも知れませんが、強すぎる太陽光は作物にとっても有害となり、作物には一定量以上の太陽光は光合成に利用しないという光飽和点が存在すると言われています。この性質を利用することで、作物が必要としない余剰分の日光を発電に利用して、作物の成長を害することなく発電を可能にしていきます。ただし、トウモロコシやサトウキビ等のように光飽和点が存在しない作物もありますので、導入には作付する農作物の選定に十分に注意を払う必要があります。

ソーラーシェアリングのメリット

ソーラーシェアリングの設置は、国内の発電量を増やすことができるため、資源の乏しい日本にとっては有効な手段と考えられています。また、農家が抱える高齢化や耕作放棄地の増加、後継者問題等の解決策としても期待されており、下記のようなメリットが考えられます。

1.平地を有効活用できる。

2.CO₂の削減、原発リスクの軽減

3.売電収入や賃料による、農家の所得向上及び後継者問題の解消


農地所有適格法人とは

農地所有適格法人(旧農業生産法人)とは、法人として農業を行う農業法人のうち、特に農地の権利取得(買う、借りる)を行うことができる法人であり、農地法第2条3項に掲げられた要件を満たす法人のことを言います。平成21年の農地法改正により、農地所有適格法人以外の法人も、農地を賃貸(使用貸借、賃貸借)することが可能になりました。これにより、農地所有適格法人でなくても農地を入手して営農することが出来るようになり、法人が農業に参入しやすくなったと言えます。しかし、あくまでも賃貸することが可能になったに過ぎず、農地所有適格法人のように農地を所有することはできません。

農地所有適格法人となるための要件

農地所有適格法人となるためには、法人として農業を継続的に続けていくことを担保として厳しい制限を設けており、下記の要件をすべて満たす必要があります。

1.組織形態要件

2.事業要件

3.構成員要件

4.業務執行役員要件