生きているうちの相続対策(疎遠な相続人間の紛争防止)

相続が発生し、被相続人の戸籍調査をした時に、相続人が把握していなかった子が見つかるケースがあります。 
この「知らない相続人」が見つかるケースには、実はさまざまなパターンがあります。 

亡くなった父親の戸籍謄本を調査した結果、父親に別の女性との間に認知した子がいた、ということもあれば、父親には前婚歴があり、前妻との間に子がいることは知っていたものの、どこの誰かは分からなかった、ということもあります。 
さらには、自分と同じ父と母の子として生まれたものの、何らかの理由で別の夫婦のもとに養子縁組に出されており、自分にはその存在を知らされていなかった、ということもあります。 
このように、調査する以前から存在は知っていた、調査して初めて存在を知ったなど、いずれのケースでも、名前も連絡先も「知らない」というケースは、往々にして見られます。 

では、このような相続人がいたら、どうしたらよいのでしょうか。 
まず、こうしたケースでは、亡くなった父親自身、このような相続人がいることを隠していたり、生前に何ら対策を取っていないことがはじまりです。 
そうすると、残された相続人が父親の代わりとなって、このような相続人に連絡を取り、全員で一から遺産分割について話し合う必要があります。 

もし、元々面識があったり、連絡先を知っているという場合なら、まずは連絡して、遺産分割協議を申し入れるのがよいと思われます。 
一方、面識もなく、連絡先も知らない場合には、このような相続人の所在を調査するところから始めなければなりません。 

では、どのように進めるのかを簡単に説明していきます。 
まず、亡くなった被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得すると、「知らない相続人」の本籍地が明らかになります 
そこで、この本籍地を基に、「戸籍の附票」という書類を役所で取得します。 
戸籍の附票には、現在の住民票上の住所が記載されているので、これが分かれば、その住所宛に手紙を送り、遺産分割協議を申し入れることができます。 

もっとも、住民票上の住所に手紙を送ったものの、届かないこともあります。 
その場合は、現地に赴いて、そこに住んでいるか否かを調査する必要があります。 
現在の居所が分からなかったり、行方不明だったりする場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立て、そのうえで遺産分割協議を行わなければなりません。 

いずれにしても、「知らない相続人」がいる場合、このような相手とやり取りすることになるため、心理的負担が大きく、また、所在調査の手間と時間がかかります。 
そのため、弁護士が介入した方が早期解決に繋がるケースもあります。 

疎遠な相続人と紛争化しないためにはどうすべきかですが、
どんな手段であれ、すべての相続人と連絡が取れれば、その先にすることは、通常の遺産分割と同じです。 
まずは協議をして、まとまらなければ調停、それでも折り合いがつかなければ審判による解決を目指します。 

相続人同士の関係性が希薄であったり、隠し子への感情的な葛藤があったりするケースでは、紛争が激化しやすく、解決が長引く傾向があります。 
その一方で、亡くなった父親が、生前に遺言を残すなどして相続対策をしていれば、その意思に従って手続きを進めればよく、そこまでもめずに終えられるケースもごく稀にあります。 

このように、隠し子の存在を黙ったまま世を去ると、さまざまな問題が後で起きてきます。 
残される全ての人のためにも、遺言書を残すなどして、生きているうちに、相続対策をしておくことが大切です(本記載内容は、2021年8月現在の法令等に基づく)。